はてなブックマーク - Alertbox: 2005年 ウェブ・デザインの間違いトップ10(2005年10月3日)

?Bから広まった記事は、微妙におかしな読み方をされていることが多いような……記事の背景が一緒に伝わらないのが原因かもしれない。例えば、ここに挙げたAlertboxの記事を解釈するためには少なくとも以下の前提知識が必要だろう:

  • これは翻訳記事であり、オリジナルはuseit.comにある*1
  • 著者であるJakob Nielsen博士はユーザビリティ工学の専門家である。基本的に、彼の主張は注意深く行われた実地調査およびユーザテストの結果に基づいた知見である。
  • ただし、ときに彼はアクの強い書き方をする。
  • また、それらの調査の多くはアメリカで実施されており、結果には彼の国ならではの特性も含まれる*2
  • 彼は長年に渡りユーザテストの重要性を説いている。また、大規模なテストを行う余裕のない小規模な事業者へ向け各種の簡易テスト手法やガイドライン*3を提供している。
  • eコマースサイトを運用前後にテストする目的は、そのサイトの生み出す利益を最大化することにある。要点は、潜在的な顧客を発掘することと、訪れた顧客を確実に商品の購入へ導くことである。
  • 実際のところ、このコラムは主にそのようなサイトの制作者・運用者に向けて書かれている。
  • 公開された調査結果はどのような場面で役に立つのか――「ここにくるくる動くやつを付けてもっと格好良くしようよ。ほら、よくあるじゃん。フレッシュ、フレッシュ」とメインページにFlashナビゲーションを所望する無知な上司を「それは我が社の損失になるという調査結果があります」と説得する場面において。そのような上司には下手な理屈よりも「利益の減少」という具体的なキーワードが有効である。

なので、記事後半の:

今年度のウェブ・デザインの間違いトップ10は、基本に忠実なウェブ・デザインに立ち返る必要性を明らかにするものとなった。メーリングリストやウェブサイト、カンファレンスに至るまで、インターネット業界では、新しく、魅力的な“Web2.0”機能に関する話題が尽きない。しかし、ユーザはテクノロジーなど気にしておらず、新しい機能など望んでもいない。彼らはただ、基本的な部分での質の向上を求めているのだ。

特にユーザはテクノロジーなど気にしておらず、新しい機能など望んでもいないの部分に関してはてなの技術責任者であるid:naoyaさんが疑問を持っておられるようだけれど、これは主張の善し悪しやテクノロジーの役割とは別の次元の話題。単に、否が応にもそういう現実があるからデザイナの皆さんは覚えておくように、という博士の調査に基づく指摘に過ぎない。実際、オリジナルの当該箇所はusers don't care about technology and don't especially want new featuresとなっており、翻訳とは若干ニュアンスが違っているように思う*4
結局のところ、新機能によって開拓された顧客によってもたらされる利益よりも新機能に困惑した顧客が購買を諦めることによる損失の方が大きいのならばその機能の採用を思い止まるべき、というだけの理屈なのだ。技術者にとって不幸なのは、新機能に触れたユーザのうちどれだけが商品に興味を持ってくれるのかは全く未知数なのに対して、新機能のせいで逃したユーザの大部分はUIさえ適切だったのなら商品を購入してくれたに違いないという現実である。このことはまさに、UIが適切でないにも関わらずそのユーザがそのサイトを訪れたという事実によって示されている。標準でないUIを採用する場合には特に慎重にならなければいけない。これまで博士はそういった主張を繰り返してきた。

しかし、それはテクノロジーを追求することをやめ、思考を停止することではない。シンプルで誰もが使えるインタフェースで、新しい体験を提供するために、裏に隠れたテクノロジーが何をするべきかを考える、それが技術者の役目だ。そうでなければ GoogleiPod任天堂DSも、生まれることはなかっただろう。テクノロジーの追求があったからこそ、機能をシンプルなインタフェースのみで提供することができたのだ。

それが技術者の役目だ――名台詞である。至極格好良い。だからはてなは魅力的なのだ……という個人的な感想はさておき。機能をシンプルなインタフェースのみで提供するというのはまさに博士の主張するところである*5。しかし、3つの製品がシンプルであったり驚きの体験を提供したりできることについては、特にテクノロジーあればこそというわけでもないのではないだろうか。Googleの問題は単純に簡易検索と詳細検索のどちらをデフォルトにするかという選択にすぎず*6*7、またテクノロジーに疎いユーザはそもそもGoogleに驚いたり満足したりなどしない。iPodApple主義の美学こそが快感なのであり、任天堂DSはまさにゲームマシンであるがゆえにエキサイティングなのだ。何よりはてな自身、その魅力の源泉はテクノロジーにはない――それは、まさに「はてならしさ」の中にある。

*1:記事中にはリンクがない……?

*2:例えば、英語の言語特性、ブロードバンドの普及率など。

*3:このコラムも広い意味ではその一部である。

*4:「ユーザがテクノロジーを意識することはないし、特に新しい機能を欲しがっているわけでもない」というニュアンスだと思うのだけれど……英語は良く分からないなー。

*5:これがなぜ反論の形で書かれているのだろうか。

*6:「詳細な設定項目やパーソナライズよりも、洗練されたデフォルトを」の原則。参考記事は過大評価されるパーソナライゼーション – U-Siteデフォルトの力 – U-Siteのあたり……?

*7:というか、Google(の見た目)がシンプルなのは彼がGUIの皮を被ったCLIだからなので(そのデフォルトの性能とUIのバランスの取り方は絶妙だと思うけれど)。